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女子サポーターはゴール裏に増えるのか?


Jリーグの観客は女性が男性よりも約20%も少ない。

 

2018年のJリーグ観戦者調査によると、Jリーグの観客は女性が男性よりも約20%も少なく、しかも最大時よりも4.4%も女性比率が低下している。各クラブでは女性サポーター獲得のアイデアが練られ、一部では成果を上げ始めている。

では、女性サポーターは、どのような考えを持っているのか、また、女性が望む観戦環境は、どのようなものなのだろう。今回は、最も安価で、本来であれば手軽にチケットを購入できるはずのゴール裏をテーマに女性サポーターの考えを探るアンケート調査を実施した。

 

最も安価な座席はゴール裏席。

 

具体的な調査結果に入る前に、女性サポーターの置かれた環境について触れておきたい。各クラブの価格設定で、最も安価な座席はゴール裏席となっている。また、子供料金や学生料金が設定されているクラブも多い。そして同時に、ここはコアサポーターによる、最も熱い応援が繰り広げられているエリアでもある。過去には、女性サポーターがゴール裏スタンドから締め出されたり、女性サポーターの多いクラブのサポーターの声が「女声」と揶揄される時代があった。近年は、そのようなことが話題になることは少ないが、今でも、一部には根強く、女性サポーターを嫌うサポーターがゴール裏スタンドには存在する。今回のアンケート調査でも「あなたはゴール裏スタンドに女性が増えてほしいと思いますか?」という質問に対して、ゴール裏スタンドで観戦する男性サポーターの15%は「ゴール裏スタンドに女性が増えてほしくない」と回答している。また、アンケート調査をすることだけでも強い反発を受けたことを先に意識して、以下のアンケート調査結果を見ていただきたい。

 

2019年5月6日〜8日 回答総数1,117 インターネット調査
※一般的に女性を集客をテーマにした報告書や記事には「女子に優しい〇〇」と表現されることが多い。今回のアンケート調査においては、多くの回答数を得るために「女子サポに優しいゴール裏」というタイトルでアンケート調査を告知したが、設問においては「優しい」「優しさ」については質問していない。アンケート調査においては、好きなクラブのホームスタジアムにゴール裏スタンドがない場合はゴール裏スタンドにコアサポーターエリアのスタンドを含むとして回答を求めています。

あなたはゴール裏スタンドに何があると嬉しいと感じますか?

 

サポーター男女の半数以上から望まれたのは「サポーター間のトラブルが少ない」「トイレが綺麗で数が多い」「屋根がある」「応援に迫力がある」。

 

男女を合わせた回答者全体で集計すると、トップ10は以下のようになる。カシマスタジアムがトイレの数を増やし、観客増加につながったとして各所で取り上げられているが、それがうなづける結果となっている。全国各地にはゴール裏に屋根のないスタジアムが多く存在するが、屋根がないことへの不満は強い。

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女性は「トイレ」「選手やマスコットに近づける」を重視。

 

1位は「トイレが綺麗で数が多い」。応援に関しては、男性のみならず、女性も「華やか」が上位にランクインせず「迫力」を重視していることがわかる。「スタグルの売場が近くにある」「スイーツの売場が近くにある」も上位にランクインしていない。

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女性と比較すると男性は「トイレ」を重視する割合が少ない(とはいえ半数以上)。ゴール裏は「全員が立って応援する」スタイルであってほしいと考える人が多く存在する。

 

多くの男性が、そんなコアサポエリア(応援の中心部)に自らも加わりたいという欲求を持っているため「コアサポエリアに気兼ねなく入れる」が6位にランクインしている。女性と比べると「早い時間から並ばなくても良い」を選択した男性が約10%少ない。「試合後に選手が挨拶に来る」は上位のランク外。

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女性回答者を「ゴール裏女子」と「ゴール裏女子以外(非ゴール裏女子)」に分けて集計すると考え方の差が現れる。ゴール裏女子には「早い時間から並ぶのは大変、でも、より選手の近くに行きたい」人が多い。

 

応援に関する考え方の違いも数字に表れているが、非ゴール裏女子の上位ランクに「試合後に選手が挨拶に来る」が入っていないことに注目。より「迫力ある応援」をする一員としてゴール裏スタンドに足を踏み込んでいることもわかる。一方「ファッションや応援方法を強要される」イメージからゴール裏で応援しない非ゴール裏女子が多く存在することをうかがわせる。

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「J1で最も男性的な応援をする」と評判の浦和と「J1では女性比率が高くライトな応援の印象がある」と長く言われてきた横浜の女性サポーターに絞って比較してみると「応援」「スタジアム」「サポーター」に大きな意識の差が現れる。

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応援について

「応援に迫力がある」では倍程度の違いが出ている。また、浦和の女性サポーターの9位には、これまで一度も上位にランクインしていない「試合中に旗を振っても怒られない」がランクインしている(ただし26.1%と少数意見ではある)。浦和の女性サポーターの上位に「コアサポエリアに気兼ねなく入れる」がランクインしていないことから、埼玉スタジアムのゴール裏席では「男性中心の中央中段」と「女性も混じる周辺」の住み分けが行われていることが裏付ける。

スタジアムについて

横浜の女性サポーターでは「トイレ」「屋根」「カップホルダ」を必要なものとして60%以上の得てランクイン。浦和の女性サポーターと比較すると多くのサポーターが選択しているのがわかる。日産スタジアムの全エリア屋根付き、広い通路等の設備は、横浜の女性サポーターから支持されていることがわかる(ゴール裏席からピッチは遠いが)。

サポーターについて

多くのサポーターが選択した「サポーター間のトラブルが少ない」が50%を割っているのが、浦和の女性サポーターの大きな特徴。サポータートラブルに対する感覚が、他のクラブのサポーターとは乖離している傾向が見られる。

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「女性サポーター像とは?」数字には現れない背景を解説する。

(tasukeLサポーター研究所客員アナリスト ささゆか

男女のライフスタイルの違いが明確に出たのはトイレと早い時間に並ばなくて良い、の2項目でしょうか。 トイレに関しては男女ともに清潔感を重視しますが、女性は特に肌に触れる機会が多いのでランクが高くなっています。 また、女性は化粧をする人が多いので朝早い集合時間はその分負担が大きくなると考えています。 浦和女子の回答に「マスコットがやってくる」がないのは回答者の志向もありますが、「マスコット自体がレアだから・来ると雨天のゲームになるから」が原因かもしれません。 それを踏まえてコメントです。 はじめに、私が想定する理想のスタジアム像を明確にしましょう。

「性別・年齢・身体的特徴に関係なく、誰もが入れる開けたスタジアムであること。そしてゴール裏はその熱狂を牽引し続ける場所であること」。 その熱狂と周囲へのリスペクトを保てればそれぞれの個性や志向は尊重するべきだ、と考えています。 しかし、Jリーグ公式やメディアの考察と集計時に寄せられたリプライを拝読して感じるのは「女性サポーター像への固定観念のズレ」です。

例えば「トイレが綺麗で数が多い」が必要だと回答すれば、メディア側は「ゆっくりお化粧直しが出来る空間が必要なのだ」と解釈してきました。 しかし、回答者の自分としては「トイレの数が多くないと試合やアップ時に客席に戻れる人が限られる、その間の声援の小ささが試合に響く」と考えていたのです。 「屋根が欲しい」も同じです。 雨を避けるのにも必要ですが、応援の声の反響のことを考えている、とは想定されません。 以上のような解釈のズレが進むと「応援に女子成分は必要ない」と考える人が増えるのも当然です。

かわいく、華やかにと考えている女性ばかりではないはずなのですが性別だけで疎まれてしまうような齟齬が起きているのが現状です。 男女ともにスタグルは試合中に食べる想定をしていないことなど、集計結果から読み取れるのは回答者が想定する「ゴール裏像」に大きな差はなく、このまま人数が増えれば迫力のあるゴール裏は確実に作れるということです。

とすれば、記事冒頭の「ゴール裏スタンドに女性が増えて欲しくない」の回答が15%もあったことは残念でなりません。 女性が持つ声が高い・小さい・飛び跳ねる体力がないなどのハンデは「迫力のあるゴール裏」を作るのに向かないのかもしれませんが、人数を増やさずに迫力を出すのも難しいのではないでしょうか。 匿名アンケートですから上記の解答は本音に近いと想定すると、まだまだゴール裏は女性サポーターを嫌う層が根強いことも理解しておきたい部分です。

性別が男性女性の2つしかないと考えられていた時代とは変わりました。 マーケティングの為や、体格差などの違いを配慮する意図以外で性別の区別を設けることは時代にそぐわないことですが、今ある問題を解決する為にはサポーター全体で「誰かが不快を我慢している状態」「居心地の悪さ」「閉塞感」を取り払って「また試合を見に行きたい!」と誰もが感じられる”ホームの雰囲気”を作る必要があります。 欧州でも男女がともに迫力ある応援をしているのですから、Jリーグで欧州のゴール裏の雰囲気を目指す時に「男性的」を目指すことも少し違うように感じています。 このアンケートでサポーター同士のアサーティブな意見交換が生まれ、応援環境やチケット販売のブラッシュアップに繋がる第一歩になることを期待しています。

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ささゆか (tasukeLサポーター研究所客員アナリスト) :  試合も楽しみつつ、マスコットやマーケティングを考察。2018年〜2019年に、ベンフィカ・オフィシャル・ストア(ポルトガル)、PSGストア、パルクデプランス(フランス)、アンフィールド、リバプールストア、エバートンストア、シャンクリーホテル(イングランド)を訪問。欧州のスタジアム、オフィシャルショップの最前線を体験している。

調査結果から見えてきたのは、ゴール裏席が「安価で手軽にチケットを購入できる座席」で良いのか?という疑問。

 

日本では、元来、最も試合を観戦しにくい「環境の悪い席」から応援する(良い席はほかの観客に譲る)という発想で「コアサポーターはゴール裏で観戦する」という習慣が拡がっていった。 例えば、1993年にTBSで放送された「サポーター入門」の番組では、そのような理由と「好ましい席」が紹介された。

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しかし、その後、歴史を重ねるにつれて、ゴール裏のコアサポーターが集まるエリアは「環境の悪い席」ではなく「独自の高い価値を持つ席」に進化している。そして、その価値は男女やサポーターの個人の嗜好により異なっており、単純に説明できるものではないということが、今回の調査で明らかになった。 従来からの慣習で「屋根がなくても良い」「最も安価でも良い」という座席であり続けることが、すでに実態にそぐわないのではないか。

 

ライトなファン・サポーターは安い価格の席で集めるのが鉄則だが、ゴール裏に女性サポーターを集めなければならないという鉄則は不要だ。

 

現在のゴール裏席には、大雑把にいうと「立って迫力ある応援をしたい」層(男性が多い)と「選手の近くに行きたい」層(女性が多い)が混在している。さらに新たな女性客をスタジアムに呼び込みたい・・・そして、まずは経済的なハードルの低い「価格の安い席」から呼び込みたいと考えれば、改善すべきところがある。

クラスターを細分化すればキリがないが、少なくとも、ある程度は感じられる男女の嗜好の差を考慮して、スタジアム内の運営計画やエンターテイメント計画を見直すことで、より良い観戦(応援)環境を提供できるはずだ。例えば「試合後に選手が出向く先はゴール裏スタンド前が適切なのか?」「別の席種前であるべきなのか?」「特定のスタンド前に偏るべきではないのではないか?」といった検証だ。そして、何よりも重要なのは価格政策だ。

 

ダイナミックプライジングは時代の変化を捉えていた。

 

横浜F・マリノスの前売りチケットでは、通常であれば価格が最も安いことが多いゴール裏自由席(サポーターズシート)のチケット価格がバックSB席の価格を上回る現象も起きた(三ツ沢球技場)。ゴール裏自由席(サポーターズシート)は「環境の悪い席」ではなく「独自の高い価値を持ち人気のある席」となっていることが証明されている。 ※詳しくは下の画像をクリックして日経クロストレンドの記事をご覧ください。

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例えば、ダイナミックプライジングの導入以前の基本料金でも、ゴール裏席の価格をバックスタンドのコーナー付近よりも高くしても良いのではないか。子供料金や学生料金をバックスタンドのコーナー付近に設定する、といった価格政策の見直しにより、応援したいスタイルに応じた適切な座席選びを出来るスタジアムになるのではないかと考えられる。

回答全体

Q2-14その他には「ひどい罵声がない」が多く挙げられた。