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チェルシーはかつてフーリガンの巣窟だった 差別事件の背景


チェルシーのサポーター集団がパリ市内の地下鉄で黒人の乗車を妨害した。列車に乗り込もうとする黒人男性を強制的に押し「俺らは人種差別主義者だ!俺らは人種差別主義者だ!これが俺らのやり方だ!(=何が悪い?)!」と歌った。人種差別行為で有罪になれば、3年の実刑判決と4万5000ユーロ(約610万円)の罰金が科される見込みだと、パリの検察官が明言。キャメロン首相もラジオで言及する大問題となっている。

チェルシーというクラブに、みなさんは、どのようなイメージをお持ちだろう。ロシアの大富豪ロマン・アブラモヴィッチがオーナーであり、世界でも有数の金満クラブだということ。「スタンフォード・ブリッジには独特の雰囲気がある。チェルシーサポーターが他のクラブのサポーターと同等、もしくはそれ以上にチームを愛していることは知っているが、通常彼らは熱狂的な雰囲気を作り出そうとするスタンスはとらない」とモウリーニョ監督がサポーターに苦言を呈したこと。高級住宅地に本拠を構えることから、上品でおとなしいクラブというイメージがついている。

しかし、それはプレミアリーグ誕生以降、それもルート・グーリットなどイタリアで活躍した選手を続々と獲得し始めてからのチェルシーだ。実は、70年代、80年代にはチェルシーは凶暴なファンのいるクラブの代名詞だった。「フーリファン 傷だらけの30年」という書籍がある。フットボールファンの父と口うるさいが愛情深い母の間に生まれた少年が、いかにして「フーリガン」の急先鋒となったのか。英国で「最も危険なサッカーギャング」と呼ばれた男の30年間を追った作品だ。そこには、国内リーグでありながら「イングランド」と雄叫びをあげるチェルシーサポーター、「パキ(スタン)バッシング」をするチェルシーサポーター、「うるせぇ、役立たずのブラック野郎」と挑発するチェルシーサポーターなど、喧嘩や市街戦に明け暮れる毎日が描かれている。

今回の事件は、チケット料金が高いUEFAチャンピオンズリーグの、しかもパリで行われたアウエーゲームの際に行われている。トルコのRadikal紙の2012年の記事によると、シュクリュ・サラチオールスタジアムで行われたUEFAチャンピオンズリーグの試合後に起こった騒動で逮捕または取り調べされたサポーターには逮捕者の中には医師、私立学校の教師、イギリスで金融会社の上役として勤務している人物、エンジニア、不動産屋、法律事務所勤務者、会社経営者が含まれていた。また、書籍「フーリガンの社会学」で紹介されたフランスのフーリガン調査によると、フーリガンは無学でも無職でもなく、39.21%は学生・生徒。大半は職業を持っている。また、暴力的な学生・生徒の37.8%の父親は上級管理職。67.5%は大学入学資格試験に合格しているか、学士号を手にしている。暴れるのは貧困層でも、特殊な人でもない。

イングランドのスタジアムには、今でも差別的な発言のチャントやコールが渦巻いている。ファンやサポーターだけではない。選手ですら差別発言で処分を受けている。そして、今回の事件のように、数十年も前に廃れた悪しき伝統を、引き出しの奥から引っ張り出してきて自己の力を主張する者が現れる。チェルシー初の黒人選手であるポール・カノーヴィル氏が「私がその集団の前にいたら、どのように感じただろうか?私が言えることは、私はそのバカどもの前に立ちたい。そして私が誰であるかを彼らに告げ、彼らが同じような行為をするのかを見てみたいね。きっと違ったことが起きるだろう」と発言した。だが、おそらくポール・カノーヴィル氏は勘違いしている。彼らは同じ行為をできる。「そんなの関係ねぇ」と言うだろう。なぜなら、ポール・カノーヴィル氏自身が「私は(差別行為の)何から何までチェルシー時代に経験した。どのクラブでもそうした行為は行われた」と、現役時代に差別を受けていたと告白しているからだ。

「サポーター」と呼ばれる人物の全てが、純粋にクラブを応援しているわけではないのだ。